心のなかでだけ

サンジがナミさんロビンちゃんと言って嬉しそうにお茶の用意をしている声が聞こえる。 わたしはさっき名前を呼ばれたときにいらないと答えてしまったから、蚊帳の外だ。 芝生に足を投げ出して力を抜く。 目をつむると余計に彼の声が耳についてしまって、寝ようと思っても寝られなかった。

パタパタと足音が近づいてくる。 瞼をこじ開けたのと同時に、ルフィがわたしの横に座り込んだ。
「なあ、はサンジのあれ、嫉妬したりしねえのか?」
「え?ああ・・・あれはもうしょうがないよ、キリないし」
不思議そうな顔で尋ねる我らが船長に、ほとんど苦笑しながら答える。 答えてしまってから、会話のおかしさに気付く。
「は、え・・・?嫉妬って、な、んのこと?」
どもりながらも言葉を紡ぐ。 ルフィは気にも留めないようすで質問に答えてくれる。
「だって、おまえサンジのこと好きなんだろ」
「な、んで」
「なにが」
「誰にも、言ったことないのに」
「ああ。なんでって言われてもなあ。船長の勘だ!」
誰にも告げず、態度にも出さないよう気を付けて、ただ心の中で思っていただけだったのに。 いっそ清々しいほどにかっと笑うルフィに、このひとには勝てないとしみじみ思う。
「みんなにも・・・サンジにも、ばれてるかな」
「ばれちゃいやなのか」
「そりゃあやだよ」
「ふうん。まあ、ばれてねえと思うけどな、そんな素振り見せてなかったし」
「でもルフィにはばれてるじゃない」
「だからそれは船長の勘だって」
「もしかして鎌かけた?」
「カマ?カマってなんだ」
「・・・なんでもない」
「好きだって、サンジに言わないのか?」
うわあ直球。なんてばかみたいに思いながら、おおきく息を吸って、長くながく吐き出す。
「船の雰囲気悪くなるのは嫌だから、そんなことしないよ」
「好きって言ったら、雰囲気悪くなるのか?」
「・・・あのね、ルフィ」
このひとは、好きなひとができたら自分の気持ちをまっすぐ伝えることができるんだろう。 思いが実らなかったときのことなんか考えずに。
「わたし、この船にいるみんなのことが好きなの」
「うん」
「みんなで今と同じようにずっといたい」
「うん」
「わたしが気持ちを伝えなければ、たぶん、その願いもかなう」
「ふうん」
「だから、サンジに好きなんてぜったい言わないの」
「そっか。がいいんなら、それでいい」
「うん。ごめんね」
「なんで謝るんだ?サンジのこともみんなのことも好きなんだろ?」
「うん」
「じゃあいいじゃねえか」
「そう、だね」
「それにおれだってのこと好きだぞ」
ルフィの好きとわたしの好きはたぶんちょっとちがうと思うのだけれど、 ルフィが笑うからわたしもいっしょに笑う。

コーヒーの苦い香りと、お菓子の甘いにおいがいっしょくたになって鼻をかすめた。

(2011,2,4)