ジュライサンシャイン

ちりりん。
まだ7月がはじまって一週間しか経っていないというのに、
この暑さはなんだろう。
家で日焼け止めは塗ってきたけれど、皮膚が日差しにじりじりと攻撃を受けているのが分かる。
ちりりりりん。
日傘とか、買おうかな。でも学校に日傘さして行くのもな。
「ちょっと、無視すんじゃねえやい」
振り向くとそこには自転車にまたがった沖田がいた。
「無視されたくないなら声をかけなさいよ、ベル鳴らすんじゃなくて」
「無駄に体力消耗してくなかったもんで。意味なかったけど」
「横着するから」
「うっせ」
沖田は自転車にまたがったまま、隣に並んでべたべたと歩く。
今日部活は、と聞けば当然のようにさぼりとの答えが返ってくる。
「だってこんなにあちいんですぜ。朝練なんかしてられねえ」
「きっとみんなそう思ってるよ」
呆れながらも笑ってしまうが、ふと沖田がやたら汗をかいていることに気付く。
距離が長ければそれだけ暑さの餌食にもなるか、なんて当たり前のことを思う。
「わたしコンビニ寄るけど。お昼買わなきゃ」
「付き合ってやらあ、涼みてえ」

沖田が自転車をとめるのを待って、冷房の利いた店内へ入る。
「あー生き返らあ」
「ちょっと涼んで待ってて」
「へーい」
おにぎりとパンを適当に選んで、それから暑くても溶けなさそうなお菓子を吟味する。
チョコはだめだし、飴とグミもアウトかしらん。
ー」
迷っていると、棚の向こうから沖田が声をあげた。
「なあに?」
とりあえずお菓子を選ぶのはやめて、沖田のほうへまわると
彼は「アイス買ってくれよ」と言いながらケースにのしかかっていた。子どもか。
「朝からアイス?」
「だって購買にはアイスねえし」
「うー、ん。まいっか。いいよ好きなの選びなよ」
「うお、まじですかィやった」
少し悩んで、結局沖田はガリガリくんを選んでいた。

沖田は自転車にはまたがらず、ふつうに押しながらアイスをかじっている。
「貸しじゃねえぜ、の奢りですぜ」
「わかってるって」
「・・・なんか企んでる?」
「なんでそんなに疑うのさ」
腑に落ちないと言わんばかりの視線が、可笑しい。
そんな沖田を笑いながら、「だって今日誕生日なんでしょ」とつぶやく。
二三歩歩いて、気付くと横に沖田の姿がない。
振りかえると、ガリガリくんを口に運ぶ直前の状態で静止していた。
「なんで知ってんの?」
「こないだ土方に聞いたら教えてくれた」
意外と驚かれてしまって、こちらも驚く。
「へ、え」
そういって沖田は口元を緩ませる。あ、ばかにされた気がする。
「なによお」
「いやいや。よし、今日は学校やめてどっか遊びいこうぜィ」
「は?いかないけど」
「たまには息抜きも必要ですぜ。アイスのお礼でさァ!」
「いやいいです、気持ちだけでじゅうぶん」
抵抗しても、ついに沖田に鞄を奪われる。なんなんだろうこのひとは。
「ほら、うしろ」
食べきったアイスのゴミと、鞄ふたつをかごにつめこんで沖田は荷台を叩く。
困ったな、テスト期間も近いのに。
でも、まあ。
お礼だっていうなら、しょうがないか。

(2012,10,14)