夏のこども
もうしょうがない。
いつまでもひとりで悩んでいたって答えはみつからないし、
なにより今日をすでに迎えてしまったのだ。
これはもう本人に協力を仰ぐしかない、と
購買のサンドイッチにかぶりついている沖田に向き直る。
「ねえ沖田、今日誕生日だよね」
「そうですぜィ」
「なにか、欲しいものとかある?」
「はあ?」
「プレゼントてきな」
「それ今日聞くことじゃなくね」
「だって、なにあげたらいいのか分かんなくて」
「別にわざわざ用意してくんなくてもいいんですけどねィ」
「それはわたしがいやなの」
「メンドクセ」
「いいから、なにか欲しいもの言ってみて」
「んーそうだねィ」
沖田は視線をくるりと宙へ向け、まぐまぐと食事を再開する。
ふたつめのサンドイッチと、焼きそばパンとかつサンドを続けて食べて、
ペットボトルのお茶をひとくち飲んでから、やっと「わかった」と言ってこちらを見つめた。
「なにかあった?」
「ありやした。からちゅーしてくだせえ」
「うん?」
「だから、ものはいらないから、かわりにから」
「ちゅうするの?え、いまここで?」
「だっておまえ、一回も自分からしてきたことなかっただろ」
「いやでも、ここ学校だよ」
「知ってらあ」
「だれかに見られたらめんどうだし、そろそろお昼休み終わるし、それに」
「いいから。」
にらみつけられて、続けようとした言葉を飲み込む。
そんなに何度も回数をこなしたわけでもないのに、まさかわたしから
キスをしなければならなくなるなんて。
キス。わたしから沖田にキスを。
「じゃああの、や、ちょっと待って」
心音がばくばくと響く。
無性に頬が熱くて、沖田に見つめられていることがやたらと恥ずかしく感じる。
「目、つむって」
素直に沖田は目をつむる。
けれどわたしはそれだけじゃ不安で、汗をかいている右手をスカートで拭って、
沖田の目を手のひらでおおって、そして
キスを、した。
「は、」
それは一瞬というには長すぎた気がして、終わってからまた恥ずかしくなる。
「はああ、した、したよわたしがんばった」
「ちゅーすんのに、なにそんなに照れてんでィ」
「慣れてないんだもん」
「だからって照れすぎでさ」
「ほっといて」
「ていうかねえ、沖田も顔あかいんだけど」
「お前の照れっぷりにあてられたんでィ」
「あは、なにそれ」
「うっせえや、こっちみんな」
(2012,10,14)