大丈夫
「」
むすうっと口を尖らせたルフィが背後からわたしの名前を呼んだのは、
サンジくんとゾロと三人でお喋りをしていたときだった。
ちょっとこっち来い、そう言って男部屋へ連れて行かれる。
べたりと床に座り込んだルフィが、正面の床を顎で指した。
この横暴さはいったい何なのだろうと思ったけれど、おとなしくわたしも床に座る。
胡坐をかきつつ背筋を伸ばしたルフィが、改まった様子でわたしの名を呼んだ。
「」
「はい」
「お前、もう俺以外の男とは話すな」
「はい?」
「だから、俺以外の男とは」
「いや、聞こえたけど」
じゃあなんだよ、と言った顔で睨みつけられる。
真顔でこのひとはなにを言いだすんだ。思わず笑ってしまいそうになる。
「そんなことできないよ」
「がんばればできる」
「ええ、無理です」
「やる前から無理って決めつけてたら、なんにもできねえんだぞ」
「それは、そうだけど」
「けど、なんだ」
噛みつくように言葉を紡ぐルフィは、たぶんほんとうに機嫌が悪い。
「男のひとって、ゾロやサンジくんでもだめなの?」
「そりゃあ、あいつら男だから」
「じゃあチョッパーが相手でも話しちゃだめってこと?」
ふとルフィの瞳が揺らいだ。
うんと肯定しつつ、だんだんとルフィはうつむいていく。
めちゃくちゃなことを言っている自覚はあるようだ。
「だって、なんか見てるとむかつくんだ」
ぼそりとつぶやかれた言葉に、一瞬思考回路が停止する。
そしてさっきとは違う意味で頬が緩むのを必死でこらえた。
一方のルフィは床を見つめたまま、眉間にしわを寄せている。
ああ、このひとは。
「じゃあさ、ルフィ」
切りだすと、ルフィも顔をあげた。
「ルフィもわたし以外の女の子と喋らないでいてくれる?」
「それは、」
「わたしが喋ったらいやって言ったら、もう誰とも喋らない?」
ルフィはなにか言い返そうと口をぱくぱくさせるけれど、うまく言葉が見つからなかったらしい。
嫌そうな顔をして押し黙った。
「不可能でしょ」
「不可能じゃ、ねえ」
「ナミやロビンとだって、話しちゃだめなんだよ」
ぬう、と声になっていない声があがる。
手を伸ばして、ルフィの手に重ねた。指と指を絡める。
「ねえルフィ」
「なんだ、」
「わたしはルフィが好きだよ」
ルフィは、なにも言わない。なにも言わないで、ただ瞬きをして言葉の続きを催促する。
「だから、ルフィが誰か女のひととお喋りしてたら、不安になる」
「も?」
「うん。さみしくもなるし、いらいらすることもあるよ」
「そう、そんで胸んとこがもやもやすんだ」
「わたしも。ナミやロビンが相手のときでも」
もやもやするよ。それに、
「それだけじゃ、なくってね」
ひとつ呼吸して、また口を開く。
「その相手が男のひとだったとしても、ルフィが楽しそうだったらわたしは嫉妬してるよ」
黙ったまま、ルフィは首をかしげた。
「相手のね、男のひとがうらやましいなあって思うの」
「・・・」
「置いてけぼりをくらったみたいな気持ちになる、みたいな」
「そうだったのか」
「でもね、その後にルフィとお話したら、胸のなかのもやもやはすぐ消えちゃうんだよ」
つなぐ手にきゅっと力を入れる。
「わたしはそれでもう、大丈夫なの」
「・・・」
「だからルフィも、わたしが男のひとと話した分だけ、ううん、それよりもっとたくさん、わたしとお話すればいいのよ」
「・・・それで、むかついたりしなくなるか?」
「いまわたしと話していて、ルフィはまだサンジくんやゾロに対してむかついてるの?」
「・・・いや、」
「じゃあ大丈夫」
にっこりと笑ってみせる。
「ルフィと一緒にいて、いっぱいお話してれば、わたしも大丈夫」
「大丈夫、」
「大丈夫。ね」
「そうか、うん。そうだな。大丈夫」
だいじょうぶだいじょうぶと繰り返していたら、扉がごんごん叩かれて、昼食の時間を告げられた。
手をつないだまま、立ち上がってルフィとわたしは食堂へ向う。
(2011,2,3)