ただそれだけ
はじめて、唇と唇を重ねた。と言っても、掠めたかその程度のものだった。
思わずつむってしまっていた目を一瞬ぶりに開くと、
極々至近距離で目が合ってしまう。思わず照れて、ふたりして吹き出した。
「やだもう、笑わないでよ」
「だって笑ってるじゃんか」
くすくすと一通り忍び笑いをすると、ふたりの間の緊張もほどけた。
どちらからともなく顔を寄せる。
二度目のキスは、最初とは比べ物にならないほど、ずっとしっかりしたものだった。
「ん、」
そっと離れて、角度を変えてもういちど。もういちど。
ルフィの掌がわたしの頭を支える。
それに答えるように、両腕をルフィの背中にまわした。
ついばむようなキスが、唇に留まらず顔中に降ってくる。
瞼にも、頬にも額にも。
首筋から唇が離れた瞬間、ちゅ、という小さな音が聞こえて、
恥ずかしかったけれど同時にくすぐったくて、また笑ってしまった。
ルフィが顔を上げる。
心の底から楽しそうな、恍惚とした笑みを浮かべている。
ゆっくりと唇を合わせる。
そのうち控えめに舌が挿入されて、驚いたけれどわたしもそれに絡めた。
お互いになんだか拙くて、口の中を一周すると遠慮するようにルフィの舌は帰っていった。
自分の息が上がっていることに気付く。ふうと大きく息を吐いた。
なんだ。キスってこんなに、こんなにも幸せなものだったのか。
「、」
「なあに」
頬を少しだけ赤らめたルフィが、不思議そうな顔でこちらを見つめる。
「なんかおれ、心臓がばくばく言ってるぞ」
てのひらを自分の左胸にあてて言う。
「うん」
ぺとりと、わたしもルフィの左胸に手をあててみる。
薄い布越しに、鼓動を感じた。いささか速い。
「わかるよ」
ルフィの目にかかっている前髪を、すいと上げてやる。
「わたしも、ばくばくしてる」
にっこりとほほ笑みながらそう言うと、なんのためらいもなくルフィが私の左胸に手をあてる。
「ほんとうだ」
にひひという風にルフィも笑う。
心音を確認したいって、ただそれしか考えてないんだろうなあと、
なぜか冷静に頭の隅で考えてしまう。
女のムネに触る、なんて考えは微塵も持っていないらしい。
わたしがそうしたように、あっさりとてのひらはわたしの胸を離れて背中に回された。
ぎゅっと抱きしめられ、もとよりなかった距離がさらに縮まる。
「好きだ、」
「わたしも」
「キスって、気持ちいいな」
「うん」
「ずっとこうしてたい」
「うん」
唇のかわりに、額同士がくっついた。
ふたりして、目を合わせて、また笑う。笑ってばかりだ。
今だけじゃない。ルフィといるときは、大概笑ってばかりいる。
ああ、わたしって、
幸せだなあ。
何度目かわからない口づけをしながら、噛みしめるようにそう思った。
(2011,1,23)