弱点
神楽ちゃんは定春の散歩に行ってしまって、今日はそのまま志村家に泊まるのだという。
そんな連絡を受けて万事屋に足を運べば、早々に銀ちゃんに捕まってしまった。
ちょっと、という暇もなくリビングまで抱きかかえられるように移動する。
「がっつきすぎ、銀ちゃん」
思わず笑ってしまう。ふたりでもつれるようにソファに倒れこんだ。
「だって久しぶりだしい」
ふざけたようにそう言って、銀ちゃんが顔を近づけてくる。
いいけど。別にいいんだけど、でもあんまりすぐにことを進めるのはなんだかつまらなくて、
思わず顎に噛みついた。
「い」
心外そうな顔をして、銀ちゃんがわたしを見る。
「なに、焦らしプレイでもしたいの」
「されたいの?」
銀ちゃんがどえすだということは身をもって知っているけど、
もしかしたらほんとうはちょうどえむで、いつも焦らされるのを待っているのかもしれない。
なんてことを考えたわけではなくて、わたしは単純にオウム返しをしただけだ。
銀ちゃんは質問に答えない。
答えない代わりにため息をひとつついて、額にかるいキスをされた。
真意がつかめない。
「銀ちゃん?」
目が合うと、銀ちゃんは困ったような顔をしながらふっと笑った。
「俺、待てないよ」
それはひどく優しい声だった。
「ねえねえ銀ちゃん」
じんわり湿った腕のなかで、半分寝ているようなそのひとの名を呼んだ。
相槌というよりはうめき声に近いような返事が返ってくる。
「銀ちゃんってむかしはいろいろ暴れまくってたんでしょ?」
「・・・ん?」
「無敵の白夜叉でさあ」
「その呼び方はやめて」
「いまもだれより強い僕らの銀さんで」
「僕らってなんなの。てかなにいきなり」
「なのにわたしには銀ちゃん、勝てないね」
こぼれそうな笑いを我慢して、勝ち誇った顔をつくっていう。
銀ちゃんは一度目を瞬かせてから、眠そうな顔のまま優しく笑った。
「そうだよ、銀さんメロメロだもん」
笑ったまま鼻の頭にキスを落とされると、結局つられてわたしも笑ってしまった。
「銀ちゃんそれ死語」
(2012,10,14)